今も多くの酒が生産される灘五郷
現在の東灘区にあたるエリアでは、もともと酒の原料になる米の生産が盛んで、六甲山系からの水にも恵まれ、気候も適していたことから、古くから酒造りが行われてきた。明治以降は灘周辺の酒造りが盛んな場所として今津郷、西宮郷、魚崎郷、御影郷、西郷が灘五郷と呼ばれるようになった。現在も灘五郷は全国の酒の生産課税出荷量のうち約25%を占めるなど酒の主要産地として知られる。灘五郷のうち東灘区御影郷と魚崎郷が東灘区内となる。
御影郷に今も残る「沢の井」
御影郷は阪神本線「御影」駅付近に広がる。阪神本線「御影」駅の高架下には神功皇后が朝鮮半島に出兵した帰りに化粧のため姿を映したという「沢の井」がある。御影という地名はこの泉に神功皇后の姿が鮮やかに映し出されたことに由来するそうだ。また、室町時代には「沢の井」の水を利用して天皇に献上した酒を生産したと伝えられる。
御影郷では現在も白鶴酒造、菊正宗酒造などが生産を続けている。これらの酒造会社には「白鶴酒造資料館」や「菊正宗酒造記念館」が設けられており、御影郷の酒造りの歴史を学べる。
日本酒と食事を楽しめる魚崎郷
魚崎郷は魚崎エリア、本庄エリアに広がる。魚崎郷には櫻正宗が本社を構える。この櫻政宗が運営している「櫻正宗記念館“櫻宴”」には酒造りなどに関する展示スペースのほか、カフェやダイニングがあり、日本酒とともに食事を楽しめる。
優れた文化も生み出した灘五郷
灘五郷の酒造りは文化の発展にも貢献した。「白鶴美術館」は白鶴酒造の創立家当主であった嘉納治兵衛の収集品を展示する美術館だ。賢愚経残巻(大聖武)2巻、大般涅槃経集解71巻といった国宝2点のほか、重要文化財に指定された作品も数多く所蔵している。昭和初期に建てられた和洋折衷の本館の建物も登録有形文化財に指定されている。
東灘区内には他にも、朝日新聞社創立者で、茶人でもあった村山龍平の東洋古美術を中心とした収集品を展示する「香雪美術館」もある。「香雪美術館」も絹本著色聖徳太子像など多くの重要文化財を所蔵している。
長い歴史を誇る神社が残る
灘五郷周辺には伝統の古社も点在する。JR「住吉」駅近くに立つ「本住吉神社」は住吉三神と神功皇后を祀る神社で、日本書紀には神功皇后が神託により住吉三神を祀ったと記されているという。
阪急「御影」駅の南側にある「弓弦羽神社」にも神功皇后の伝説が残る。この「弓弦羽神社」の氏子には酒造会社も多いといわれ、酒造りとの関係が深い。
灘五郷の酒造りは東灘区の豊かな文化を育み、今も街に味わいを醸し出している。
酒造りとともに文化も育まれた灘五郷
所在地:兵庫県神戸市東灘区